音楽の友 (2012年7月号)

生誕150周年の ドビュッシーイヤ ーに合わせ、 パリを拠点に近現代 フランス 音楽で個性を発揮し ている リサ イタルは、 前奏曲全 24 曲 というプ ログラムだった。 第 1 集、 第 2 集と聴くうちにドビュッ シーの 音楽がつ くりあげる多彩な側面がく っきりと浮か び上がってい くのが面白かった。 前半では〈野を渡る風〉の音の粒が空間をよぎる小気味よさ、そして〈沈める寺〉の神秘的なこだまのような響きなどが巧みに表現された。後半は最後の〈花火〉まで、緊張感が途切れない見事な集中力、軽やかな〈水の精〉はもちろんのこと、 ユーモアを感じさせる〈ピックウィク卿を讃えて〉などを通じて、 改めてドビュッシー の魅力を堪能させてくれるピアノだった。 アンコールは〈月の光〉。 なお9月にもソロに加えてアモイヤル、 グロギャランを迎えて室内楽も交えたコンサー トが予定されており、そちらも楽しみである。

(5月17日・東京文化会館(小))伊藤制子